大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和44年(う)1179号・昭44年(う)1178号 判決

被告人 今野博 外一名

〔抄 録〕

所論に徴し記録を調査するのに、原審の取調べた証拠(中略)を総合し、且つ当審において検察官から提出された古山七男外一名に対する凶器準備集合等被告事件の控訴審公判廷における証人小林公夫の供述を記載した公判調書(抄本)を参酌、考量すれば、被告人両名を含む計九名が、原判示の派出所勤務の警察官らに対し、同僚が逮捕されたうつ憤をはらすために、共謀のうえ、ガソリン入りのいわゆる火炎びんにマツチ等で点火し、これを右派出所内に投げ込んで火災を発生させ、警察官らに対し石塊を投げつけ角材で殴打するなどして右派出所を襲撃しようと企て、右九名がガソリン約五〇〇cc入りと同約三三〇cc入りのビールびん二本に布で栓をしたものの外、角材、石塊等を分け持つて、右派出所附近の路上に集合し、同派出所に近接する原判示花園神社入口附近まで歩行し、被告人今野を除く被告人小川ら八名が、同神社境内に入り、同派出所を約一〇メートル下に見下ろす地点に集まつた事実、右各ガソリン入りのビールびんは、そのままの状態で使用された場合には内部のガソリンが流失し、火源の存在があれば発火する可能性が十分あると認められる事実、右派出所の構造は鉄筋コンクリートであるが、内部構造、什器設備は木造、その他の可燃性である事実、本件当時同派出所の二、三階が外装工事のため布キヤンバスで覆われていた事実並びに当時同派出所には警察官一〇余名が勤務していた事実等を肯認するに十分であつて、これらの事実を合わせ考察すれば、被告人両名の放火の準備行為が物的にも行動的にも外部に表出されたことは明らかであるというべく(もつとも、被告人今野が一行から離脱し、前記花園神社境内に入らなかつたことは前に触れたとおりであるが、同被告人は前記説明のとおり謀議に基づき右派出所に火災を発生させるなどの目的をもつて、他の八名とともにガソリン入りのビールびん二本等を分け持つて、同派出所附近の路上に集合し、同派出所に近接する前記花園神社入口附近まで歩行したのであるから、その時点において同被告人の放火の準備行為が外部に表出されたと解し得られるばかりでなく、同被告人が離脱した事情は、証拠上、原判決が認定したとおりと認められるところ、同被告人以外の八名は、前記謀議に基づき引き続き前記のとおり右花園神社の境内に入り、前記派出所を見下ろす地点に集まつたのであるから、被告人今野は、他の八名の右行為についても、共謀共同正犯者としての責任を免れ得ないことは当然であるといわなければならない。)、即ち被告人両名の本件各所為はいずれも刑法一一三条にいわゆる放火の予備罪をもつて問擬されなければならない。

しかるに原判決は、被告人らが果たして本件派出所の建物それ自体を焼燬する意思までもつていたかどうかについては相当の疑問が残るとし、放火予備の点について犯罪の証明がないとしているけれども、前記各証拠と対比検討すれば、原判決が被告人らに犯意を認めがたいとした論拠は合理性に乏しく、これを要するに、原審は証拠の価値判断を誤り、ひいて事実を誤認し、右の点について無罪としたことに帰し、しかも右の誤は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決はこの点において破棄を免れない。検察官の論旨は理由がある。

第二、被告人今野に関する量刑不当の論旨について。

前記のような被告人今野の放火予備の犯行の動機、態様の外、原判示凶器準備集合、公務執行妨害、傷害の各犯行の動機、態様、さらには同被告人の当時の生活態度等に徴すれば、その犯情は軽視を許されないものがある。しかしながら、記録上認められるとおり同被告人は本件各犯行の遂行について、必ずしも積極的態度に終始していたとはいいがたいのみならず、同被告人は前記のとおり原判示公務執行妨害、傷害の実行行為に関与していない点等、同被告人のため参酌すべき情状、はたまた同被告人の当審公判供述によつて認められる原判決後の利益な情状、ことに、従前の生活環境から離脱し、ガードマンとしてまじめに働いており、更生の意欲が窺知されないでもない点等を参酌すれば、この際同被告人を保護観察付執行猶予に付したからといつて、必ずしも刑政の本義に反するとも思料されず、従つて、原判決の同被告人に対する量刑を目して検察官所論のように著しく軽きに失したものとはいいがたい。検察官の量刑不当の論旨は理由がないというの外はない。

以上の次第で、本件各控訴は、前記のとおり事実誤認の点において理由があるから、刑訴法三九七条、三八二条により原判決をいずれも破棄したうえ、同法四〇〇条但書に従い、直ちに自判する。

(当裁判所が被告人今野について、原判示第一の一の事実にかえ新たに認定した事実)

原判示第一の冒頭の事実中、末尾(原判決書三枚目表の末尾から三行目及び二行目)の「………前記警備派出所を襲い、公務執行中の警察官に暴行を加えることを共謀した。」の部分を、「………前記警備派出所を襲い、これに放火し、かつ共同して公務執行中の警察官に危害を加えることを共謀した。」と訂正し、同判示第一の一の事実中、末尾から二行目以下(原判決書三枚目裏の末尾から四行目以下)の「もつて、凶器である前記角材およびガソリン入りビールびんを準備して集合し、」の部分を、「もつて、凶器である前記角材およびガソリン入りビールびんを準備して集合し、かつ現に人の住居に使用する前記派出所に対する放火の予備をなし、」と訂正する外、右原判示第一の一と同一の事実であるから、これを引用する。

(当裁判所が被告人小川について、原判示第一の一の事実にかえ新たに認定した事実)

原判示第一の冒頭の事実中、末尾(原判決書三枚目表の冒頭から二行目ないし四行目)の「前記警備派出所を襲い、公務執行中の警察官に暴行を加えることを共謀した。」の部分を、「………前記警備派出所を襲い、これに放火し、かつ共同して公務執行中の警察官に危害を加えることを共謀した。」と訂正し、同判示第一の一の事実中、末尾から三行目以下(原判決書三枚目表末尾から二行目以下及び同裏一行目)の「もつて、凶器である前記角材およびガソリン入りビールびんを準備して集合し、」の部分を、「もつて、凶器である前記角材およびガソリン入りビールびんを準備して集合し、かつ現に人の住居に使用する前記派出所に対する放火の予備をなし、」と訂正する外、右原判示第一の一と同一の事実であるから、これを引用する。

(栗本 石田 藤井)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!